最後の7日間②(⑱禁描写無し) 9月20日(月) 午後3時
(なんでこの女はこんなに落ち着いていられるんだ?)
俺は胡座をかいてコーヒーを啜る自分の姿を見つめる。
「で、これからどうする?なんとかして元に戻らないと」
俺が尋ねる。
「うーん、いつ元に戻るか分からないし、とりあえずしばらくはこのままでいる覚悟を決めた方がいいかもね」
(このままでいる?そんな馬鹿な)
俺はなんとか元に戻る方法を考えようとしたが、そもそも体が入れ替わるなんてありえないのに、戻る方法なんて思いつくはずもなかった。
「やっぱりさ、誰かに相談してみないか?」
俺が苦し紛れに提案する。
「誰かって誰よ?」
「医者とか担任とか」
「何て言うの?『俺たち入れ替わりました』なんて言ったら、頭おかしくなったって思われるのがオチよ」
「うっ…」
高樹の鋭い指摘に俺も黙るしかなかった。
「ねえ、このままじゃどうしようもないし、まずはお互い自己紹介しましょ。アタシは高樹美紗、えっと、親友は葛城亜紀(カツラギアキ)。それ以外は特にクラスでも親しい人はいないし、家もこんな感じで両親がいない日がほとんどよ」
家族の写真はリビングにしかない、との事でとりあえず亜紀の写真をスマホで見せられるが、もちろん同じクラスだから知っている。
しかし、この家はとても静かだ。共働きなのだろうか?広い家はしんと静まり返っている。
家族の話を振ってみると一瞬高樹の顔が曇った…ように見えた。
「あっ、いや、言いにくい話なら…」
「いいのよ、うちの両親はお互いに不倫をしていてこの家にはほとんど帰ってこない、ただそれだけのことよ」
あっさりとした口調だったが、なんとなくクラスでも浮いた感じの美紗が理解できたような気がした。
「次はあなたね。」
促されて話し始める。
「ああ、うちは六人家族で両親、じいちゃん、ばあちゃん、俺、それに兄貴が一人いる。兄貴は既に独立してるから、一緒に住んでるのは実質五人だ。写真はこれ」
どうも自分の声が女の声っていうのが気持ち悪いが、慣れるしかないだろう。
さらにお互い家族の呼び方や、住所、普段の行動などを伝え合う。
美紗は部活もしていないし、授業が終わったらバイトに行くか、彼氏や亜紀と遊ぶか、家に帰るかぐらいのようだ。
俺は部活もやっているし、これまで全くと言っていいほど接点がなかったのも頷ける話だった。
その時、ふいに俺は違和感を感じた。
「なあ、高樹。お前、なんか隠してないか?」
「えっ?何も隠してないわよ」
「そうか?」
「何でそう思うのよ?」
「さっきからお前、全然俺の目を見て話さないじゃないか。」
「うっ…」
「隠し事するのはやめようぜ。これから協力してやっていかないといけないわけだし、やっぱりこういうのは信頼関係が大事なんじゃないか?」
「えっと…あの…」
「何なんだよ。言ってくれないと俺もお前を信用できなくなっちまうぞ」
高樹が急にモジモジし始めて顔が赤くなる。
「えっと…でも…」
「でもじゃねーよ。何なんだ?」
俺は小さなテーブルに乗り出すようにして高樹を見つめる。
「ああっ、もうっ、いいわよ。見なさいよ」
そう言って高樹は自分の股間を指さした。
「うわっ」
俺は驚いて声を上げる。
「『うわっ』って何よ。自分のでしょ」
俺の息子がズボンを突き上げて山のようにテントを作っていた。
「あ…すまん。いや…何で?」
「知らないわよ。まったくもう…」
二人とも無言になり気まずい空気が流れた。
場の空気を和まそうと俺が口を開いた。
「すまん…信用がどうこう言って申し訳なかった」
(おかしいな。俺の体ってこんな状況で勃つのか?うーん、こんな状況で、女の子と一緒の部屋にいるだけであんなに勃つわけないのにな)
「さて、そろそろ俺は帰るよ。」
俺が考えていると高樹がそう言って立ち上がった。
「えっ…もうちょっと良いだろ?」
俺は慌てて追いかけて高樹のカッターを掴んだ。
「いや、慣れるには一人で色々試さないとな。それより美紗はもっと女の子らしい言葉遣いしろよ。バレたらかなり面倒なことになるんだし」
(おおっ…男っぽい)
変なことに感動してしまう。立ち振る舞いなどは男そのものっていうか、俺じゃないか…。
「あの、必ず夜に電話するから…出てねっ」
女の子っぽい話し方をしてみた。
(うーむ、この声だとこっちの方が合うのは合うが…どうも気持ち悪いな)
「分かったよ。じゃあな。」
こうして俺は一人高樹の家に残された。
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