「…っていう夢を見たんだけど」
僕の話を聞いていたジルがふむ、と頷いた。
「不思議な夢だな。村正と関係するものかと思っていたが違うのか。土御門…むしろ村正よりも葵本人に関わる名前だな」
(そう、確かに今のところ村正が出てこないんだよね)
僕がジルの意見について考えていた時だ。
「そうだった。葵の発情についてなんだが」
「何か分かった?」
「一つ考えがあるのだ。あれから葵は発情していないだろう?」
そう、三日おきなら昨日発作が起こるはずだったのに起こらなかった。
「おそらくなのだが、シュクランで我々としたことが関係しているのではないかな。つまり、定期的にガス抜きをすれば発作は起こらないのではないか」
「それってつまり…?」
「たまにセックスをしろ、という事だ」
考えてみたら、僕がその…イタシテいたのはいつも村正による発情や媚薬のせいだった。
(それを素面でするって…。ラルフやジルと裸でベッドに入って…、想像出来ないっ)
ぶんぶん頭を振る。
(出来ない出来ない、そんなの無理っ)
ラルフ、ジルと目が合った。
「えっと…カンガエトキマス」
(そうだよ。まだ決まったわけじゃないし。もしかしたらもう起こらないかもしれないし…)
だけど、僕の希望はあっさりと否定された。
それは舌の根も乾かぬ翌日のこと。
「ぁ…っ…ゃっ…」
図書館の一角。静謐な空間にそぐわない声が漏れている。
『グチュ…グチュ…』
僕は見知らぬおじさんに体を弄ばれていた。
(今日初めて会った人にこんなこと許してるなんて…はうぅぅ)
最初のそんな思いは流れ込む欲情に押し流されて、今ではスパイスにすら感じる。
これは、ラルフが図書館に行くというのでたまには一緒に行こうと僕もついていった事に端を発する。
(そういえば図書館ってほとんど来たことなかったなぁ)
アヴニールの図書館は巨大だ。この国の全ての書物が集まっていると言っても過言ではない。
「あら?今日もいらっしゃったのね」
三十代くらいの眼鏡をかけた司書の女の人がラルフに気がついて声をかけてきた。
「鍵を開けてもらっても?」
ラルフの言葉に女の人が微笑んだ。
「ええ、今日は可愛いお嬢さんも一緒なのね。ウフフ」
司書の女の人が先に立って歩く。図書館内は誰も話さない、床も絨毯が敷かれていて足音のたたない不思議な空間。
本棚にかけられたジャンルを目で追いつつ二人を追いかけていく。
(へえ?魔術の本に、こっちは魔物についてかぁ)
ところ狭しと本棚があって、まるで迷路のようだ。
授業中だからか学生の姿は見当たらない。まれに空き時間なのか、教官らしき人が本を読んでいたり、司書の男の人や女の人が棚に本を片付けている程度。
と、ラルフと女の人が立ち止まっていた。
「ここは?」
僕の質問に女の人が答えてくれた。
「ええ、閲覧場所には置ききれない専門書なんかがここにありますのよ」
『ガチャリ』
南京錠を外すと金属製の重そうな扉をギギーと開く。中から少しかび臭い匂いが漂ってきた。
「それでは帰りに声をかけてくださいね」
それだけ言って案内してくれた女の人は来た道を戻っていった。
「俺は本を読んでいるから葵は飽きたら帰ってくれていい」
ラルフに頷いて僕も書庫の中の本を出してペラペラ捲ってみたけど、眠くなってきた。
(………飽きた)
ラルフを横目で見るとなんだか難しい顔で本を読んでいる。
(そうだっ、大和について
何か書いてある本があるかも。夢についても分かるかもしれないし)
書庫を出た僕は「やまと」、「やまと」と呟きながら本棚の迷路を歩く。
(広すぎて見つからないよ…)
そう思っていたらちょうど書棚の間に司書のおじさんを見つけた。
「あのぉっ、ちょっと良いですか?」
「はい?何でしょう?」
おじさんのんびりした口調で答えてくれる。
「大和…大和ね…はいはい、それならこっちですよお」
おじさんが案内してくれたのは壁際の大きな棚。
「確かここに…ええっと」
おじさんが見上げるあたりの本の背表紙に倭の文字が見えた。
「あっ、あったぁ」
脇にあった台に飛び乗った。
「うわっ、危ないですよおっ」
おじさんが慌てて台を押さえてくれた。僕は背伸びして本に手を伸ばす。
「うーん、もうちょっと…あっ、取れそうっ」
思ったより分厚い本は重たくてなかなか引き出せない。
「あっ」
バランスを崩しそうになった僕は足元を見て動きが止まった。
(あれ…?)
おじさんの視線が上を向いている。
(…上?)
その視線の先には僕のスカートがある。
「えっ?」
『バサッ』
「ああっ」
本が落ちてきた。なんとか胸に抱えて落とさずに済んだけど。ふらつく体が不思議なことに台から落ちずにすんだ。
おじさんが手を伸ばして腰を押さえている。
その目が先程までの優しい眼差しから獣のような瞳に変わっていた。
(へっ?…なんで…ふぁ?)
体からふっと力が抜けた。
本を抱き締めるようにして震える脚で立っているとおじさんがスカートに顔を突っ込んできた。
「あっ、何をっ」
「ふがふが…こんなにスカートの中を見せてきて…わかってるよお、誘ってるんだろお」
僕は台の上で腰を動かすけど、力が抜けて逃げる力はない。
(なんでこんなときにっ)
「はうっ」
その直後、おじさんの欲情に体が反応した。
(なんでこんな格好してきちゃったんだろ…)
マギーさん、秋の新作は長袖の柔らかい少し薄手のワンピース。フードつきで一見パーカーのような感じで裾は絞らずヒラヒラしている。
(うわぁ…ラルフぅ)
「ス~ハ~、たまらないよお…いい匂いだなあ」
ヒラヒラしている中に入ったおじさんの顔がパンティの匂いをかぐ。
「甘くて、…ん?これは汗の匂いかなあ?」
「そんっなぁ、言わなくてっ、いいからぁ」
説明されて恥ずかしさに頭を振る。そんな僕におじさんがさらに怖いことを言い始めた。
「ん~、味も確かめたいなあ」
(ええっ?)
「だめっ、ですぅっ」
だけどおじさんが止まるはずがない。
「ネロ」
「ふっぁぁぁっ」
敏感な部分に舌が当たって腰砕けになった僕はお尻をおじさんに押しつけるはめになった。
「ふむむ…情熱的らな、ふんふんっ」
何やら勘違いしたおじさんはさらに匂いを嗅ぐ。
「あっ、だめっ」
おじさんの息が太腿のつけ根に当たる。
「大きい声だしたら人が集まってきちゃうよお?」
「ぁ…」
口ごもる僕を確認して、おじさんの動きがさらに大胆になった。
「ネロ…チュウ…ぷはあ」
スカートを捲り上げて、パンティの底に吸い付く。すぐに薄い布は唾液でベタベタにされた。
「んんっ…」
ところが、おじさんはパンティ越しに舐めるだけでそれ以上はいつまで経ってもしてこない。
(どうして…もぅ…がまんできないにぃ)
僕の方から腰を動かしてしまって、おじさんの鼻が敏感なところに当たった。
「ぁっ…」
「ふがふが、したいんならしたいって言えば良いのに」
おじさんが台から僕を引きずり下ろすと、本棚に手をつかせてスカートに手を入れた。
『チュクチュク』
太いおじさんの指が直接触れた。
「はぁぁ…」
背中を快感が登ってくる。
もうパンティはびちょびちょだけど、それはおじさんの唾液だけではないのは確かだ。
「ほらあ、たまらないんでしょう?すぐに楽にしてあげますからねえ」
ようやくパンティに手が掛かって脱がされる。
命令されたわけでもないのに、おじさんが脱がせようとする動きに合わせて僕は足を上げて手伝った。
「全く、自分から欲しがるなんて。悪い娘だなあ」
そう言って悠長にズボンを後ろで脱いでいるのは分かるけど、体は立っているのでやっとだった。
「よおしっ」
多分パンツまで脱いだのだろう。僕の腰をおじさんが掴んだ。
「い…やぁ…」
「そんなこと言っても体はうぐっ」
『ドサッ』
何かが倒れる音に振り返るとラルフが立っていた。足元におじさんが気絶している。
「ラルッ…」
ラルフが僕の腰を持ち上げる。
(ラルフも…)
グッと力強く腰が押し出されて踵が持ち上がった。
『ズンッ』
「くふぅっ」
奥に届いた瞬間、熱い息が僕の口から吐き出される。
「はぅ…すぅっ、はぁ、はぁ」
『ジュブッ、ジュブッ』
ラルフの腰の動きに合わせて鳴る粘液のかき混ざる音が静かな空間に響いた。
(こんな…おとが…)
「はぅっ、んっ、あっ、やっ」
突き上げられる度に甘い声が出てしまう。これだけ静かだと図書館中に聞こえているのではないかという不安に体の感度はさらに増し、目の前の棚の隙間から遠くに人の服らしきものが見えて、体が震えた。
「あっ、やらっ、こえっ、ぁんっ、がまんできなくなりゅっ…んっ、チュッ」
振り返った僕はラルフと舌を絡ませながら何度も絶頂に体を震わせたのだった。
◇◇◇
「はっ、せいっ」
『ガガッ』
気合いの入った千手丸の打ち込みを安倍犬千代は正面から受け止めた。つばぜり合いになる。
「良い打ち込みだっ、ではこちらからもいくぞっ」
ググッと力がこめられ弾き飛ばされた千手丸が構え直した時、烈帛の剣気が襲いかかった。
「くっ」
尻餅をついてもおかしくないほどの圧力に千手丸は立っているのが精一杯だった。
目の前に木刀の切っ先が突きつけられた。
「ま…参りました…」
「うむ。だが、俺の剣気を前にして立っていられただけでもお前は充分強いぞ。そら、そこにいる武三などは」「ちょっと、止めてくださいっ」
真っ赤な顔で武三が止めた。
「はははははっ、すまんすまんっ」
道場には明るい笑いが広がった。
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