「ちょっと、村正ぁ?」
(「ほほほ、主殿、面白いものを見せてもらったの」)
「いろいろ聞きたいんだけど!」
(「しょうがないのぉ。言うてみよ」)
怒り気味の僕の言葉に村正はなぜか上から目線で答える。
「なんで僕、女の子になってるの?」
(「それは先程も言ったじゃろうに?妾の力を最大限に使うために体が変化したのじゃ」)
妾の言葉を聞いていなかったのか?とでも言いたげな不満げな反応。
(いやいやいや、その態度おかしいよね?)
言いたいことは色々あるけど、グッとこらえて質問を続ける。
「えっと、これっていつまで?」
(「ふむ、死ぬまでじゃな」)
「ええっ!?ちょっとだけ男に戻るとか…」
(「無理じゃな」)
当たり前の事だと言わんばかりの即答に血の気がひいた。
「どっ、どうしようっ…!」
(「大丈夫じゃ。主殿は元が元じゃからほとんど変わらんぞ」)
「そんなの全然フォローになってないよ…」
頭を抱える僕に村正が話を続ける。
(「さらに主殿に朗報じゃ!なんと、主殿は妾のチカラで歳をとらない体になったのじゃ!」)
「不老不死?」
(「それはちょっと違うぞえ。過去の主殿の中には拷問されて死んだものや世を儚んで自殺したものもおるからの」)
「つまり、死ぬときは死ぬんだね」
(「そうじゃ。他に質問はあるかの?」)
「あとは…村正は誰でも抜けたの?」
これは僕が一番聞きたかった質問の一つだった。
(「そうではない。主殿と妾の波長が合っておったからじゃ。主殿に出会うまで100年以上待っとったからの」)
(なるほど…じゃあ、やっぱりこの刀が僕の運命の刀だったんだ…)
「はぁ」
僕はなんとも言えない想いにため息をついた。
(「しかし、悪いことばかりではないぞえ。すでに主殿も体験したように五感が限りなく鋭くなったじゃろ?それに、主殿はまだ妾との波長が完璧ではない故、触ったものの気持ちしかわからんようじゃが、波長が合うにつれて周りの人間の考えていることが読めるようになるのじゃ。さらにその先も…ほほほ」)
(確かに、相手の考えが読めるようになれば戦いでは敵なし…いや…でも女になってしまうなんて…)
僕はそんな風に考えていて、ふと気になったことを口にする。
「ところで、呪いって女になってしまうだけ?」
不老で五感も鋭くなって、周囲の考えまで読めるのに、対価はそれだけでいいのか。いや、女の子になるだけで充分酷いけど。
(「うむ。…ああ、そうじゃったそうじゃった、それ以外にもあったぞえ。主殿が妾の力を使うと周りの生き物が発情するのじゃ」)
「へ?」
(はつじょうって…?えっと…発…情…?)
(「おそらく、今頃は先ほどの男も…ほほほ、聴こえるぞえ」)
僕は不審に思って耳をすます。
(「何でだ…体が熱いっ、くそっ止まんねぇっ」)
ジェイクの声と『クチュクチュ』という擦る音が聴こえる。
「これって…まさか…」
(「そうじゃ、主殿も罪作りよの」)
「??」
意味がわからないけど、ジェイクのかすれたような声と擦る音を聞いているとなんだか体が熱くなってきた。
(「ほほほ、ところで主殿、顔が赤いようじゃが?」)
「い、いやいやいや、村正ってば何言ってるの?」
(「仕方ないのじゃよ、主殿は先程から何度も妾の力を使っておるからの。発情しとるのじゃ」)
「へ?…発情って…僕もなの⁉」
そう言うと急に村正の気配が消えた。
「村正?ねえっ」
村正は完全に消えてしまったようだ。
(「はぁ、はぁ、くぅっ」)
ジェイクの吐息がまるですぐ隣にいるかのように聴こえる。それを聴いているとなんだか僕まで息が荒くなってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
(これが…発情…)
見下ろすと、シャツのボタンが今にも弾け飛びそうなほどパツンパツンになっていた。
「ゴクリ」
苦しそうな胸のボタンを外す。
『ボロン』
二つの乳房が締めつけから解放されて飛び出した瞬間、ピンと勃った乳首がシャツと擦れた。
「ふぁっ♡」
思わず出た声はまるで女の子のようだ。
(なに?…この感覚…ん…柔らかい…)
僕は恐る恐る胸に触れた。そして一度揉み始めたら最後、止まらなくなった。
「んっ、なにっ…これ…おかしいっ、あっ♡声がとまんない♡…んはぁっ♡」
(「はぁ、はぁ、はぁ」)
ジェイクの吐息が耳に吹き掛けられる感覚に体が震える。
今度はズボンを脱いでパンツに手をいれる。
『くちゅっ』
「はぁんっ♡」
(何これ?すごいっ)
すでに股間がお漏らしでもしたかのように濡れていた。
(「くぅっ、擦れば擦るほど気持ちいいっ」)
ジェイクの声が聴こえる。
僕は指で割れ目の上をこねる。
「きゃんっ♡なにこれっ♡」
両手が胸と股間をそれぞれ愛撫する。
(僕の体なのに…勝手に動いちゃうよぉっ)
僕の指は触るたびに気持ちいいところを見つける。
ダメだと思っても指がクチュクチュと動き回る。
(「くそっ、今日はなんでこんなに、葵っ、はぁっはぁっ、イキそうだっ」)
「あんっ、おかしくなるっ♡おかしくなるぅ♡♡」
「「イクぅッ♡♡」」
(『ドピュッ、ドピュッ』)
顔にかかるんじゃないかっていうくらい至近距離でジェイクの射精の音を聞きながら僕は絶頂に達した。
◆◆◆◆◆
深夜、僕はこっそりと家を出た。
何もしなくても、シャツに胸が当たって感じてしまうから包帯を体に巻いていつものズボンとシャツを着た。
「村正」
僕が呼ぶと手から村正が現れる。
(「主殿、どちらへ?」)
「今から銀狼を狩りに行くよ」
(「銀狼…懐かしい名じゃな」)
月明かりの中、森の中を歩く。
(「ふむ。主殿、見られておるぞえ」)
(「えっ?」)
僕も五感を集中すると耳元で狼の息遣いが聞こえた。
パッとその方向を見ると赤い目が光っている。
(「主殿、いかがする?」)
(「もちろん全滅させる」)
僕の答えが気に入ったのか村正が嬉しそうに笑った。
(「封印から解き放たれた直後にこんな楽しいことになるとはの…主殿で良かったのぉ」)
息遣いが近づいてきた。
気配を隠しているつもりだろうが、今の僕には手に取るようにわかる。
右から五、いや六頭、前からも二頭、それに後ろの藪に四頭隠れているか。
(さあ、来いっ!)
狼の呼吸が一度大きくなった瞬間右に向かって村正を抜刀した。
「ギャッ!」
まさか先を越されるとは思っていなかったのだろう、最初に突っ込んできた一頭の顔が半分に切れた。
さらに次々に飛び込んで来る狼をなで斬りにする。
「ハッ」
後ろから激しい息遣い、振り返りざまに刀を横にして切りつける。
(前から来ていた二頭も近い)
刀の重みと遠心力を利用して弧を描くように後ろから突っ込んできた狼も一刀両断。
ダンスを踊るようなステップが終わる時には、付近は狼の死体で溢れていた。
「ふぅ」
僕は一息つく。
(全然切れ味が鈍らない。凄いっ)
(「お見事。主殿も素晴らしい腕前ではないか!」)
(「そ、そうかな?」)
(「これほどの腕前と容姿がほかの刀に取られていたらと思うと妾は死んでも死にきれないぞえ」)
(容姿はどうでもいいでしょっ!)
思わずツッコミを入れるけど素直に嬉しい。
(「父さんはもっとすごかったんだ」)
(「ほお、お父上とな?」)
(「そう、御門政信って言うんだけど…」)
そう言った瞬間、村正の気配に怒りの色が現れた。
(「御門…政信じゃと?」)
(「どうしたの?」)
(「主殿は政信の愛刀を知らんのか?」)
(「えっ、うん。知ってるけど?」)
(「『正宗』。あの憎き脳筋が妾を封印させたのじゃ」)
(「へえ、でも村正は強いんじゃなかったの?」)
(「正宗の能力が…」)
(「えっ?能力が?」)
(「まあ良いわ。む、主殿っ!」)
左の木々の間に先程よりも大きな気配。
(黒狼かっ!)
右からも一頭、前後に二頭ずつ。全て大きな気配。さらにかなり遠いが、銀狼の気配も感じる。
(ようやく来たか)
前から一頭が飛び込んでくるのを居合で切り抜け、そのまま二頭目の爪を交わしながら脇腹を切る。
さらに後ろから忍び寄る黒狼がいるのを僕は感じ取っていた。
飛び込んでくるのを半身でかわすと、その後ろに控えていた一頭を切る。
まさか自分の所に来るとは思っていない狼を切るのは容易い。
そして一歩下がる。
「ギャインッ」
左右から飛び込んできた二頭の黒狼がぶつかって鳴き声をあげたのを横に一閃、同時に二頭を始末した。
(残り二頭か)
振り返って二頭を見る。ジリジリと僕が近づくと黒狼達が下がる。
そして二頭が尻尾を足の間に挟むようにして逃げだした。
二頭の逃げた先、そこにはあの銀色の毛並みを持った巨大な狼が立っていた。月の光に輝くその姿は狼の王者にふさわしい堂々たる姿だった。
(「主殿…これは立派な銀狼じゃな…美しいのぉ」)
(「村正、褒めている場合じゃないよ」)
コメントを残す