暗雲の兆し

行燈の火がユラユラと揺れ、一つの影を作っていた。
芦屋道綱である。盃をグイッとあおって眉間に皺を寄せる。

「奴が病に臥せっておるこの好機…何かいい手はないものか…」

奴、とは土御門家当主のことである。
土御門政直が病に臥せっていることは評定会議を欠席していたことから探りを入れて知った。

そして、仇敵である土御門の不在の間に影響力を高めようとしてきたのだが、これまではかばかしい結果は出ていない。

「三郎の奴も、もう少し役に立つかと思っていたが…」

息子の顔を思い出すと、さらに苛立ちが強くなった。
息子の三郎は今土御門のお膝元の道場に入れた。土御門の嫡男と同じ道場で探りを入れるためだったが、こちらも成果は特にない。

最近は特に道場に行くことも減ったとの報告も得ている。

「あ奴は何をしておるのか…!!息子でさえなければ、とっくに切っておるところぞ!!」

このまま何もないままに土御門政直が持ち直してしまったら、せっかくの好機も台無しである。焦燥感に道綱は持っていた盃を投げた。

「ええい!!忌々しい!!このまま死んでくれればいいものを…ん?そうかそうか…死んでしまえばいいのだなあ」

それまでの苦虫を潰したような表情から一転、笑みがこぼれる。

「誰ぞ!!誰ぞおらぬか!!猿を呼べ!!」

◇◇◇

村正が刀を打ち始めて一週間が経っていた。

研ぎまで入れるとおおよそ一月はかかる、とのことで、千手丸は落胆を隠しきれていない。気持ちを切り替えるためにも、ちょっと休みがちだった道場に毎日通っている。

「お願いします!!」

僕の前に立つのは武三。

「お願いします!!」

親しき仲にも礼を欠かすことはない。
正眼に構える武三に対して僕は下段。後の先をとる柔剣を修める僕は、それにさらなる磨きをかけようと日々気合いをいれていた。

(…打ち込んでこないのか?それなら…)

武三は構えたまま一歩も動かない。

「!!」

そして、息を吸い込んだ瞬間に僕は前に出る。

「ま、参りましたぁ!!」

武三はそのままへなへなとしゃがみこんでしまった。

「ふぅ…」

僕は手拭いで首筋を伝う汗を拭う。

(っと、…あれ?)

武三はまだお尻をついたまま僕を見上げていた。

「どうした?」

「…えっ、あっ、いやっ、その、すまねえ!!」

手を貸すために屈むと、慌てたように武三が僕の手をとって立ち上がった。

「それにしてもさ、千手丸の剣は凄まじいな」

武三が早口に話し始める。

「そもそも、隙が無さすぎて攻められないし、かといって攻めようとしたときにはもう目の前に刀が突きつけられてて…どうなってんだよあれ!!」

そう、相手の息を読んで、動く前にこちらから攻める。かつて師に教わった、先の先を僕はとったのだった。

「いや、たまたま上手くいっただけだ」

実際、僕も武三と同じく、汗だくになっていた。
必至に相手の呼吸を感じとるため、立ち合ったあとの消耗が激しすぎるのだ。

「よし!今日はここまで!」

犬千代殿の号令で今日の鍛練は終わりとなった。若い門弟が板間の拭き掃除を始めるのを見て、僕も手伝う。

いつもなら武三から誘われて帰るんだけど、チラッと見ると犬千代殿と話しているようだ。

「千手丸様、お先に失礼します!!」

門弟達も掃除が終わって帰っていくし、僕も今日は一人で帰ることにして二人に声をかけて外に出た。

「ああ!!また明日な!!」「お、おう、今日はちょっと犬千代と話があるから…さ!!」

ところが、道場の門を出たところで僕は手拭いを忘れてきたことに気がついた。

(手拭い置いて来てしまった!!)

手拭い一枚ぐらいなら明日でもよかったんだけど、一応取りに戻ることにする。
すると、犬千代殿の声が耳に入ってきた。

「武三、さっきから何が言いたいのか分からん。何か言いたいことがあるならはっきり言え!!」

「えっと、いや、その、さ…千手丸のことなんすけど」

僕の名前が出たので、手拭いを手に持って思わず聞き耳を立ててしまった。

「千手丸がどうしたんだ?」

武三は犬千代殿の質問に答えず、逆に聞き返す。

「なんか、最近変じゃないっすか?」

「変?そうか?うーむ、心当たりはない、が…どう変なんだ?」

少し言い淀んでから、武三が吹っ切るように話し始めた。

「その、変に思わないで欲しいんすけど、何だか、最近千手丸が色っぽくて…?いや、その気は無いんすけど、今日も汗を拭く時の仕草とか見てたら…それに匂いもなんだか、」

僕は思わずドキッとしてしまった。

(千手丸が女であることがバレつつある…?)

「ふっ…ハハハハハハ!!武三!!お前、溜まってるんじゃないか?」

犬千代殿の豪快な笑い声が聞こえてきたけど、背中を冷たい汗が流れた。

(早く帰らないと…!!)

僕は逃げるように道場をあとにした。

「はぁー!!」

家に着くなり、僕は座り込んで大きく息を吐く。

心当たりはあった。
最近、サラシを巻くときに以前よりも圧迫感を感じていたのだ。

(そうだ!!)

僕は長持ちの中にあった鏡を思い出し、取り出す。

(ん…!?)

写し出された顔にどうも違和感を感じた。

(…うーん……柔らかい…?)

僕の記憶にある千手丸はもっとシャープで尖っている印象だったけど、鏡に映る顔はどうも丸くなったような。

(考えられる理由は…)

まずは三郎のこと。
祭りの日から後も、数日に一回は犯されている。

あの夜見たのは父上と祓いに行った穢れだった。
あれ以来、三郎の顔を見るたび詰問しているが、三郎は知らないの一点張りだし、注意しているけど実際に見ることもなかった。

千手丸の体が異常なまでに乱れるのは穢れのせいだったのか、とあの時は確信したけど、時間が経つにつれてそれも自信がなくなってきた。なにせ、行為が始まると、考える余裕を失ってしまうほど乱れてしまうからだ。

もしかすると千手丸は完全に屈してしまったのだろうか。

(いや…でも…心の底まで屈していないはず…だけど…)

肉体的にはどうか、と聞かれると、屈していないとは強く言えない。

(うーん、三郎の方はいったん忘れるとして、…他には何かあったかな?)

ここ最近あった人の顔を順番に思い出していく。

(あっ!!)

そこで僕は気がついた。

(千手丸、まさか…村正のことが…!?)

心の中で千手丸が赤くなっている。

(えええっ!?そうだったの!?)

『ドンドン!!』

そういえば思い当たる節も、と色々と思い出してあわあわとなっていると、扉が叩かれた。

「はいはい」

がらっと開けて入ってきたのは三郎だった。

「ヒヒヒ、よお?」

「な、何?こんな時間に」

三郎が来るのは決まって夜遅く、それがまだ陽の落ちない刻に来たため、意表を突かれた。

「たまにはいいじゃねえか?ああ、暑ちいな、風呂でも沸かしてもらおうか?」

まるで自分の家来にでも命令するようにぞんざいに言い放つ。

「くっ」

仕方なく僕は風呂を沸かすために立ち上がった。

◇◇◇

「くっ!!うっ!!あ…♡」

「いい具合だなあ、あ?」

風呂の縁に手をついて突き出したお尻に三郎の固いものが押し当てられた。
もう何度も受け入れてしまったため、簡単に開いてしまう体。

千手丸は心の奥に逃げ込んだまま現れない。

(村正のことが好きなんだから…辛いよね…)

「んっ♡ふっくぅっ♡」

声を出すわけにはいかない。なぜなら、風呂の窓が湿気を逃がすために開いているからだ。

「千よぉ、お前、メチャクチャ締まってるぜえ?」

わざとゆっくりと引き抜いては押し入ってくる。

(悔しい…けど…)

何度も体を重ねたせいで、三郎の腰遣いは僕の気持ちいいところを知っている。

「んっ♡そこっ♡う…ぁ…♡」

僕らの足を中心にちゃぷちゃぷと揺れて、波紋ができる。

「ヒヒヒ、それにしてもよお、このうなじの色っぺえこと。そろそろ周りの奴らも気づくころじゃねえか?」

ドキッと心臓が掴まれたように僕は固まった。

「うっ!!こりゃスゲエ締めつけだぜ!!…なんだ?本当に気づかれたんか?」

むしろ嬉しそうにそう言って三郎の舌がうなじから背中を舐める。

「そりゃあよお、こんな体してて男なんて、そりゃあ通用しねえよなあ?」

ズンッと強く突きこまれて頤が跳ねあがる。

「誰に気づかれたんだ?ん?犬千代かあ?」

「ぅぁっ♡ちっ、違うっ♡」

抜こうとすると腰が掴まれて再び奥まで突っ込まれる。

「おいおい、逃げんなよ?ヒヒヒ…なら、武三の奴か?」

ビクッと体が震えた。

「当たりかあ!!武三に全部ばれたんか?」

訊きながらも腰を止めるつもりはないようだ。

「んっ♡ふあっ♡バレって♡ないぃ♡犬千代っどのとぉ♡話してるのをっ♡きいただけでぇっ♡」

「ふーん?何を聞いたんか教えてくれ、よっと!!」

行き止まりまで突っ込んでいた肉棒がそのままグリグリと擦られた。

「ああっ♡だめっ♡おくゴリゴリしたらっ♡たけぞうにっ♡怪しまれてるだけだからぁっ♡」

「なんだ?そんだけかよ!!どうせならバラして武三の奴にもこの体味わわせてやったらどうだ?」

「んっ♡そんな…♡やぁっ♡」

その時、小さく声が聞こえた。

「…まる…じゅまる!!いないのか?」

絶対にあってほしくない。そんな最悪のタイミング。

「あれえ?この声、武三じゃねえか?んん~?」

「ちょっ、今っはぁ♡」

抜いてもらうために腰を掴んだ三郎の腕にを掴んだけど、肉棒に蕩けた体では力が入らない。

そうこうしているうちに、僕を呼ぶ声は聞こえなくなった。

(留守だと思って帰ったかな…)

わざわざ来てくれた武三には申し訳ないけど、明日道場で謝ろう。そう思った矢先のことだった。

「千手丸?」

すぐ近くから聞こえた武三の声にビクッと体が痙攣した。

(な、なんで武三が…!!)

三郎が僕に覆いかぶさるようにして外から見えないように体を隠した。

「おい、返事してやれよ」

僕は無言で頭を振る。

「いいから、お前が返事しねえんなら俺が返事しちゃうぜえ?」

「くっ!!」

「千手丸、いるんだろ?」

仕方なく僕は返事をする。

「あ、ああ…武三、すまんが今風呂に入っていて」

「ああ、いいぜ。帰り一緒じゃなかったからちょっと挨拶しに来たくらいだからさ」

三郎の手が両肩を掴んだ。

(今はだめ…)

振りむこうとした途端、肩を引き付けるようにして肉棒が突っ込まれた。

「んっっっっっ♡♡♡♡♡♡」

姿勢のせいで挿入が浅くなっていたところに一気に奥まで入ってきて呻き声が出てしまう。

「ん?千手丸?なんか言ったか?」

「い、いや、何もっんっ♡」

逃げようと腰を動かそうとすると違う所を擦れて声がまた出そうになる。
僕が抵抗するのをやめたことを三郎が察知して腰が動き始めた。

「ふぅ♡ふぅ♡ふぅ♡んっ♡ふぅ♡」

「そ、それならいいんだけど…じゃっ、じゃあ、俺帰るわ」

「んっ♡ふぅ♡あっ、ああっ♡また、明日!!」

はあ、とため息をつく。

(武三に変に思われてなければいいけど…)

僕がそんなことを考えていると、三郎が体を起こした。

「んっああっ♡」

僕の体を壁に押しつけると、そのまま腰を密着させる。

「おいおいおい、武三が聞いてたらどうすんだ?」

さらに押しつけられて僕は壁に上半身を押しつけて喘ぐ。

「そんなっ♡武三っ♡聞かないでぇっ♡」

壁と擦れたおっぱいの先がじんじんと快感を伝えてくる。

「ちょっ、まって♡おっぱいの先っちょが擦れてっ♡」

その声も甘く、強請っているようにしか聞こえない。

「お望み通りメチャクチャ気持ちよくしてやるからなあ?」

そして、この日は湯が冷めきるまで三郎は僕を手放さなかった。