翌日。午前中に来るようにとレオンさんから言われていた僕らは支部長室のソファに座って説明を聞いていた。
話すのは主にアーバインさん。レオンさんはニヤニヤ笑って僕らを見ているだけ。
(アーバインさんの苦労がわかるなぁ)
ところで僕らの入会についてなんだけど、あれはかなり特別な措置だったみたい。
あっ、いや!分かってたよ!ギルド員が入るたびにあんな感じだったら困るし!ホントだよ!
どうやら今回はこの支部始まって以来のBランクのルーキーということで特別だったんだって!
通常ハンターギルドに入る際は簡単な試験を受けてEランクから始まる。Eランクだと薬草などの採集系ばかりなんだけど、地道に依頼をこなしながら上のランクを目指すのだそうだ。
そして次にC、Dランク、これが最も人数が多くて、危険な場所での採集や、討伐などを担当する。
ほとんどの人はCランクの上位まで行けばいいとこらしい。だからBランクでスタートする僕らは異例中の異例だね。
また、ハンターギルドの構成員は月に1回は必ず依頼を受けなければいけないし、3回以上の連続失敗は許されない。
依頼を受けなかったり、あまりに失敗が多いとギルド証が剥奪されたり、降格処分を受ける。
さらに、Cランク以上には特権が付与される。そして逆にギルドからの指名で依頼を受けなければいけないこともあるそうだ。その場合、原則断ることはできない。
現在、ロゴスの支部にはSランクは在籍していない。以前はいたそうなんだけど、今はどこにいるのかも分からないらしい。
Aランクは支部長のレオンさん、支部長代理のアーバインさん、アンナさん、ウィリアムさん。
レオンさんはSランクになろうと思えばいつでもなれる実力らしいし、アーバインさんとアンナさんは二人とも20代でAランクに昇格した天才なんだそうだ。
それにウィリアムさんだって謙遜しているけど魔法使いとしての力は超一流。
そんなわけで戦力的には他の支部に比べてもかなり高いそうだ。
そして、Bランクは僕らを含めて20人くらい。その中でも僕らは断トツで一番若い。他のBランクは30歳以上なんだって。
それで特権というのは、一つめが、ギルドから家が支給される。
これはその日暮しのハンターにとっては宿を取ったりしなくても良い分とても助かる。同時にギルドとしても優秀なハンターを確保することが出来てウィンウィンな制度らしい。
家のレベルはハンターランクで決まるから人数の多いCランクは長屋みたいなところで数の少ないBランクやAランクと比べると全然違うんだって。
二つめが長期休みを取れる。これはBランク以上のみの特権。大体、申請をきちんとすれば半年から1年くらい休んでもいいらしい。
AやBはそこまでのぼりつめられる人が少ないからってことはあるけど、優遇されてるなあ。
三つ目は自分のクランが作れる、とのこと。
これは支部によっても異なるみたいだけど、ハンターを200人以上抱えるこの支部では、Bランク以上の人が大規模なクランを作って、その中でさらに小さなパーティを作るというシステムらしい。
そうすることで、初心者を守ったり成長を促したり、それに規律が守られたりするんだって。
Aランクだと、ウィリアムさんとアンナさんはそれぞれ50人以上のクランを作っている。
アーバインさんとレオンさんはクランを作らず、運営の仕事もあるためほとんど依頼を受けられない…はずなんだけど。ところが、レオンさんはというと、気に入ったハンターを連れてちょくちょく強い魔物を専門に狩りに行ってるらしい。
「こんな人が支部長だから、私の仕事が増えるんですよ。以前に他の支部の人と話す機会があって、代理が忙しいなんて聞いたことがないと…」
アーバインさんの小言は一度始まるとなかなか止まらなかった。
(相当鬱憤が溜まってるんだなぁ)
そう思ってその元凶を見ると、耳をふさいで口笛を吹いていた…。
その他にはBランクの魔道士二人が中心となった魔法使いのクランや、さらに素材集めが好きな人たちが集まったクランなど、何やら小さいのがいくつかあるらしい。
僕とラルフもレオンさんにその場で勧誘されたけど、丁重にお断りした。
でも、いずれどこかのクランに入らないといけないということだったので、ラルフと二人のクランの申請を出した。
クランの代表者は会議への参加も義務付けられているらしい、というのは後で教えられてガックリきたけど。
さて、その後ようやく僕らもギルド証を受け取ることができた。
ギルド証は金属のタグで、名前が刻まれておりBランクは銀で出来ている。これもEランクは青銅、Dランクは鉄、Cランクは銅、Aランクは金、Sランクは白金というふうに各ランクで違う。
実はギルド証には魔石が埋め込まれており、もしもの際に探索魔術で居場所を確認するために使えるらしい。
それだけじゃない。現金の持ち歩きは危険なので、ギルドにお金を預けることもできるんだそうだ。お金を出し入れするときの本人確認にもこのギルド証を使うんだって。
「失礼します」
色々な説明を受けているとノックの音がしてケイトさんが現れた。相変わらずきっちりした格好がよく似合う美人だ。
「おっ、良いタイミングだな」
レオンさんが暇を持て余し始めていたのでちょうど良かった。
(?)
「これからお二人には家を案内させていただきます」
◆◆◆
「ただいまー」
僕らが銀狼亭に帰ると、おばちゃんが声をかけてくれた。
「おかえり。あんたたち、街ですごい噂になってるよ。支部始まって以来のホープだって?」
「えへへ…」
「Bランクって聞いてるよ。ってことは家をもらえるんだね。うちはお客さんがいなくなって残念だけどおめでたいことだからね、頑張んなさい」
「ありがとう、でも、ご飯食べに来るからね」
そう言って荷物をまとめて、僕らは再びギルドに。
「えっと…ケイトさんは…」
いたいた。
「アオイ様、ラルフ様、こちらが荷物ですか?」
僕らの荷物と言ってもマーガレットさんのお店で買った服くらいしかない。
「ギルドでお預かりいたします。お部屋にはこちらで運びますのでご安心ください」
それからケイトさんに連れられて僕らは物件選びを始めた。
「アオイさん、ラルフさん、お二人は同じ家でいいんでしょうか?」
「はい」
「でしたら、Aランクの家まで選べますね」
どうやら一人一軒なんだって。僕らは同じ家だからその分豪華になるらしい。
だけど、家といえばケルネの自宅しか思い浮かばず僕には大きさなんかを説明されてもイメージできない。
(うーん、大きい家って言えば町長さんの家くらいかなあ…)
「では、まず、地域ですが、ロゴスは北区、東区、西区、南区と分かれており、このギルドがあるのは東区になります。東区はお店が多い商人の町ですね」
「はい」
「北区は役所などが多いですし、西区は一般の方々が住んでおられます。南区が高級な住宅街ですので人気もありますし、物件もたくさんあるのですが、どうされますか?」
「うーん、できたら東区がいいかなぁ。知り合いがいるのもここらへんだけだし…あんまりこの街のこともよくわからないんで」
「あっ、そうでしたね。すみません、では東門の近くになりますが、そちらにおすすめの家がありますので見に行きましょうか」
そう言って先導してくれた。
コメントを残す