「やめてぇぇぇ!!」「いやぁぁぁぁ!!」
埃と血の匂いで煙る街のいたるところで略奪と凌辱が行われていた。
ステファノスの兵士たちが、何の罪もない女性を犯し、金目の物を接収していく。
かつて評議員だった大商人たちの首は胴と物理的に切り離され、街の中央に晒されたまま。
「くっそ!!俺たちが何をしたっていうんだ!!」
「うへへへ、見ぃつけたぁ!!」
「ひぃっ!!」
街から逃げるタイミングをうかがっていた男は目の前に突如現れたニタニタと笑う豚面に恐慌状態になった。
「こっ、殺さないでくれぇ!!あっ、有り金なら全部出すから!!ごべぇ!!」
男の隠れていた路地から大通りに血が広がっていく。
「年寄りは殺していいんだよなぁ…ありゃ?これは…やべえかも」
男が出そうとしていた有り金はかなりの量があった。
「えらいさんは残しとけって言われてた気がするけどぉ…これじゃ誰かなんてわかんねえもんなぁ」
首から上は棍棒で殴られてもはや形も何もないほど潰れていた。
◆◆◆◆
意識を失ったアテナ様がメイドたちに部屋まで運ばれた。私もアテナ様が自室に入るのを見届け、自室に戻った。
近衛隊は兵舎の中に個室を与えられている。近衛隊は私を含め5人で、周りもその仲間の部屋なのだが、物音ひとつ聞こえてこない。
後宮にアテナ様を案内した際に一人、また一人と姿を消していったのだった。
「イリスさん、おかえりなさい」
自室の扉を開くと、柔らかいテノールの声が迎えてくれた。
「ハル殿。ただ今戻った」
青い髪の少年は先日からの同居人だ。クリューソスでも会ったことのある少年で、アオイ殿を私が保護した際にいつの間にか傍にいたのだった。
「アオイはまだ…?」
そう言いながらベッドを見ると、美しい黒髪をシーツに広げた少女が眠っている。まるで人形のような美しい姿。アテナ様が見るもの全てを魅了する美しさだとすれば、眠っている少女はガラス細工のように儚い孤高の美。
クリューソスから連れて来られた少女。あの不細工なオークのような奴隷商人に献上品として連れて来られたのを、間一髪救うことができた。
(まだあの頃はアテナ様も昼間は凛としておられたのだが…)
そして、あの頃のアテナ様にもこの少女と同じ美しさがあったような気がする。あまりに変化が激しすぎて、つい先日のことがもはや遠い昔のように朧気なものとなってしまっていた。
さて、旧知の間柄であるミハエルが危機を脱するために機転を利かせた、と言い訳して(もちろんぶん殴ってやったが)打った眠り薬は本来なら半日もすれば効果は切れるはずだったが、もう1週間経とうとしているのに未だ起きる気配がない。
「どうしたものか…」
その時、部屋にノックの音が響いた。
「お医者様をお連れしました」
「うむ」
メイドに先導され、一人の男が現れた。
『ドクン』
金髪の柔らかな長い髪を後ろで一つにまとめた男。その姿が目に入るや、私の胸が強く打った。
「どうも初めまして。申請されていたのはあなたですね?」
じっと見てくる男の、髪の色と同じ金色の瞳に見つめられたその瞬間、私は服の中で鳥肌が立った。
まるで何もかも見透かされたようで、体が動かなくなる。
「は、はい」
何とか声を絞り出すと、男はベッドに目を移した。
すると金縛りのように固まっていた私の体が急に軽くなり、止めていた息を吐き出すことが出来た。
「患者はこちらかな?」
「そうです」
(それにしても…?)
このような見目麗しい医者が城にいたとは知らなかった。兵舎担当のかしましいメイドたちから噂の一つでも耳に入りそうなものだが。
ベッドの脇に置かれた椅子に座り、ぶつぶつと何か唱えながらアオイの額に手を置く。
「ほぅ…」
不謹慎であることは分かっているが、思わずため息が出た。
それほど二人の見目は美しく、男がアオイの髪を手に取った時には、見てはいけないものを見てしまったような奇妙な背徳感に頬が赤くなってしまった。
「ふむ、特に身体に異常はないようだ。魔術的な影響も見られない。放っておけばいずれ目覚めるだろう」
それからおもむろにアオイの寝巻のボタンに手をかける。
「ええええ!!なっ、何をなさるので!?」
「この服は認められていない。違うか?」
男の言う通り、この城に詰めているものは特殊な装備をさせられている。
「そ、それはそうなの…だが…なんとかそれは無しにできないか?アオイは病人でもあるし、着用が義務付けられているのは兵士のみのはずだ」
「それは通らないだろう。なにせ近衛隊であるあなたの保護下にあるわけだからな」
医者はてきぱきとアオイを全裸にしてしまうと瓶を取り出した。そこには真っ白な粘液が満たされている。
以前アテナ様が気にしておられたゼノンが集めていたとかいうスライム、それは私たちの装備だった。私の時は黒かったが、色は様々なのだろう。
このスライムは人の体を覆って、各人にあった形状に変化する。例えば私の場合は鎧の下に着るインナーの形となっている。
これは汗や排泄物、老廃物を吸い、傷ついても自動で修復される便利なものという触れ込みだった。
(知っていれば何とかして避けていたものを…)
そう、これは便利なだけではなかった。陛下に背く意思に反応して、このスライムが枷の役割をすることは隠されていたのだ。
男には苦痛を、女には快楽を与えてくる。
「では」
あっという間もなく、無造作にアオイの雪のような肌の上に真っ白な粘液が垂らされた。
「はっ…ぁ…はぁ…ぁっ、…はぁ…はぁぁ…」
上半身を粘液が覆っていくにつれ、アオイの寝息に、掠れた音が混じり始める。
(ぅ…そこは…)
胸の膨らみがほぼ覆い隠された。だが、まだ一部分だけ残っている。
まるで獲物を前にした蛇のように粘液が少し起き上がった。その伸ばした鎌首の先には薄桃色の果実が僅かに震えて固く尖っている。
そして次の瞬間、波が崩れるように粘液が最後に残った敏感な部分を覆い尽くした。
「んっ♡はっぁっ♡…んんっ♡」
美少女の悶える姿に、止めようとしていたことも忘れて私は見入ってしまっていた。
「んくふぅっ♡」
続いて下半身に移るスライム。まるで焦らすかのようにゆっくりと太腿の間に入っていくのを目の当たりにしてゴクリと生唾を飲み込む。
敏感なところを圧迫されたのか、アオイの体がビクッと体が反応した。
「んんんっ♡ふっぅぅぅ♡……っっ♡」
ビクビクビクっと痙攣した。少し赤らんだ肌が薄く広がった粘液に透けて見えているのがなんとも扇情的だ。
(…い、いや…そんな目で見ては…)
そして粘液に変化が起こり始めた。
足先まで覆っていた粘液は太腿の真ん中あたりで千切れて網の目のような模様を作り始める。こうして出来上がった網タイツは留め具もご丁寧に作られてガーターで止められた。
足の付け根でも下着の形に変化し始める。こちらもまるで職人が作ったように複雑なレースを描き始めて、あっという間に真っ白のショーツが完成した。
同時に上半身のほうにも変化は起こっていた。胸を覆っていた粘液が二つの膨らみを挟むように持ち上げて、ただでさえ目立つ膨らみが強調される。大人っぽいレースに肌の色がうっすら透けて見ている私もため息をつくようなデザインだった。
さらに腹まわりや肩、腕を覆っていた粘液が布のように変化していく。
「おぉ!!」
思わず声を出してしまった。
そこに表れたのは漆黒の髪に雪のような肌に映える、真っ白なドレスを着た姫君だった。
肩紐のないオフショルダーの上半身に、ふんわりした膝下丈のスカートはレースがフリルのように幾重にも重なっている。
さらに両手は肘まである白い手袋。もしも頭にヴェールやティアラでもあろうものなら町にいたときに見た結婚式の花嫁のようだ。
だが、この美しい姫君のような衣装もアキレウス陛下の目を楽しませるためだけに使われるのだ。そう思うとやはり気持ちが落ち込んでしまう。
(いや、そうはさせない…!!)
「健康状態は問題ない。あとは自然に目を覚ますのを待つだけだ。では、私はこれで」
「あ、ありがとうございました」
専属の近衛のようにいつもアオイを傍で守っているハル殿が何も言わなかったことが少し気にはなったが、まずはアオイが無事であることに私は安堵したのだった。
(これでアオイの方は一安心か…)
では、次に考えなければならないことは、アテナ様のことだ。
「はぁ…」
こちらは思わずため息が出るほどに状況は悪い。
王であるアキレウスは奔放な性格だったが、それでも娘であるアテナ様を家族として愛するほどには常識があった。だが、今やタガが外れてしまった。血の繋がった娘すら手籠めにし、各地に戦争を仕掛け、支配地域をどんどん広げている。
戦争に負けた都市国家は目を覆うような惨状だろう。
(せめてアテナ様が以前の聡明なお姿であれば一縷の望みがあったのだが…)
アテナ様は以前から侵略に対して否定的だった。クリューソスやアリストスとともに力を合わせて都市民たちの生活をよりよくすることを提唱されていたのだ。
(だが、私の力では陛下を止めることも出来ぬ…)
不思議なことに支配地域が広がるにつれ、アキレウス陛下の力も増しているようだ。
アテナ様を連れて逃げることも考えてはいるが、アテナ様も完全に陛下の支配下にあり、私の言葉も届かない。
(暗殺…)
不穏な単語が頭に浮かんだ。その瞬間、インナーが敏感な胸の先を刺激した。
「ふっぅぅ…♥」
「イリスさん、少しよろしいですか?」
「…ふぅ…ハル、殿?」
甘美な枷に息を整えていると、珍しくハル殿から話しかけてきた。
「なっ!!」
ハル殿が声を潜めて話す内容に私は驚き、思わず声が出てしまった。
(既にミハエル達が動き始めている…だと?)
ハル殿が言うには、ミハエルとその仲間がクリューソスの生き残りやアリストスの生き残りとともにレジスタンスを作っているという。また、旧知の傭兵団の中にも協力するものが現れ始めているらしい。
◇◇◇◇
一方その頃。城外のステファノスの街の中心の大きなコロシアム。そこでは王アキレウスが一人の男と対峙していた。
男はこれまでコロシアムで数多の敵を殺して勝ち上がってきた。その目は鷹のように鋭く、鋼のような筋肉と歴戦の傷が強さを物語っている。また、剣を持つ手の甲に緑色のウロコが見える。
さて、コロシアムで勝ち上がるのは名誉だけではない。勝ち上がった者は城に詰める兵士として働くことができる。
さらに、強者が絶対のステファノスにおいて、この決勝戦で王を殺せば己が代わりに王となることができるのだ、が。
男はたった一合も合わせることなくアキレウスの前に跪いた。
その結果、不戦勝でアキレウスが勝利した。
「うむ、二血統が出てるな。リザードマンとデーモンだな」
「はっ!!その通りでございます!!」
(…これは面倒じゃの…)
よく見れば、周囲でも体を固くしているものが見受けられる。
(これがアキレウスが王たるゆえんか。…どうやら効果があるのは魔族の血を引く者だけ…のようじゃが…)
緊張している者の幾人かは、外見にも魔族の血統が感じられる者だ。自分も含め、一般人にはどうやら効果はないことを確認してとりあえずほっと一息つく。
歓声に沸くコロシアムの中でそんな王の姿をじっくり観察している目があった。
隣のまだ年若い少女の柔らかい桃尻を撫でながらふむふむと頷く、頭の禿げた小男。
その指の先から出た糸が少女のシャツの袖から中に入っている。少女の隣に座っている少年、こちらはアキレウスの姿に興奮して目を輝かせるばかりで隣の少女の異変に気づく様子もなかった。時折少女がピクッ、ピクッと震える。
「…しかし…こりゃまた…エラいのぉ…」
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