14周目 9月23日(木) 午前6時10分 島津政信
昨夜の快感は忘れようにも忘れられないほどの衝撃だった。さらにあの後、風呂でもシャワーを使って絶頂に達した俺は、何度も自分の指に犯された。
それから疲れた体はベッドに横になるや泥のように眠りこけて、朝を迎えた。
そして、状況はさらに悪化した。
朝起きれば全てが夢だった、という甘い考えは通用せず、朝起きてみるとやはり昨夜と同じような状態が続いている。
むしろ眠って体力と気力が回復したせいか欲求は強まっている気がした。
いけない事だと自分を戒めるとますます欲しくなる。これはきっと薬物の中毒のようだと思う。
今のこの体は触れられたらきっと過敏に反応してしまうだろう。その意味では、朝練のために乗った早朝の電車は空いていて助かった。
俺は体の異変を気にしつつも、むしろそれを忘れるために気合いをいれて朝練に参加し、マネージャーなのに柔軟も参加した。
「やっぱり朝練は良いな。柔道が出来なくても体がシャキッとするよ」
朝練を終えて教室に入るときには気分は上々、昨夜のことも一旦は忘れることができていたのだが。
◇◇◇
ここはどこなのか、不思議とそんな当たり前の疑問は湧かなかった。
俺は場所も分からないところで、男に組み敷かれていた。仰向けに寝た俺は男の汗と香水の混じった臭いに包まれて、両手を恋人繋ぎしたままジッと男を見た。
顔は涙に歪む視界でよく見えない。だけど、目だけで駅で見た男であることは分かった。
「愛してる」
目が合うと男がもう我慢できないとばかりに唇を寄せてくる。
(俺の初めて…)
一瞬そんなことを考えたものの、男におさえられてあっさりと奪われてしまった。
「んっ、ちゅっ」
体が密着して感じるゴツゴツした男の筋肉にお互い何も着ていないのが露骨に意識された。
「あっ、んんっ、ねろっ、むぐぐんっ」
(キスってこんなに気持ちがいいのか…)
舌が絡むとそれだけでフワフワとして力が抜ける。さらに男は唇を奪ったまま密着した体の間に隙間を開けて俺の胸を掌で包み込んだ。
「あっ」
昨夜指で弄っていた体の敏感な部分に固いものがあたって思わず声は出たけど、既に抵抗する気持ちよりも快感を求める気持ちの方が強かった。
「膣中で出すぞ」
『なかで』その言葉にも不思議と嫌な感じはしない。自分が男なのに、などということも考えない。むしろ当たり前のように見つめあったまま俺は頷いていた。男は満足そうに俺を見つめて。
「んっ、くうっ」
前触れもなく熱く、固いものが体を押し広げてきた。全身の細胞がが喜びにうち震える。
「あっ、んあっ」
体だけではない、心まで無防備に男に明け渡す感覚。それに信頼しきった男を受け入れる安心感。
「くっ、美紗の中はきついな」
男の口から私の名前が出た。
「ぁんっ、んんっ」
そして、多幸感に震える私の肩を押さえつけ、膣奥に向かってさらに押し入ってくる。
「んっ、あっ、×××っ、×××ぅっ」
私の口からは意識せず男の名前が出た。
そして、男が俺の上で動く。
「あっ、んんっ、くぅぅっ」
膣奥をグリグリと押してくる大きな男の肉棒も愛おしく私は男の首に腕を回した。
「どうだっ、美紗っ」
「あっ、んっ、んっ、いいっ、んあっ、きもちっ、いいっっ」
男の問いかけに喘ぎながら答えて足を男の腰に絡める。
「うっ、これ以上締めるなっ、イッちまうっ」
私は男の耳元でねだった。
「いい、よぉっ、きてっ、なか、×××でいっぱいにしてぇ」
ニチャニチャと粘液の混ざる音とパンパン体同士がぶつかる音、それに耳元で囁かれる愛の言葉と少し苦しそうな吐息で私は何度も体を痙攣させた。
「イク…ぞ、美紗の膣中で射精するぞ」
涙で潤んだ瞳を男に向けてウンウンと頷くと、これまで以上に腰が押しつけられて、火傷しそうなくらい熱い粘液が私の中を一杯にした。
「しゅきい…×××しゅきぃ…」
◇◇◇
14周目 9月23日(木) 午後3時10分 島津政信
「………はっ」
ガクンと頭が落ちて目が覚めた。
(なっ、あれ?ここは?)
教壇では教師がヨーロッパの王位継承の戦争について話している。
(歴史…?)
教師と一瞬目があって、慌ててノートに黒板の内容を書き写すふりをする。
(夢…か)
朝練で早起きした俺は、昼食後の授業中に船をこいでいたらしい。そして、その微睡みの中、夢を見ていた、というわけだ。
だけど、夢と言うには妙なリアリティがあった。自分の感情や相手の肌の感覚、臭いまでハッキリとしていた。
それに、出てきた男は確かにあの男だった。
(俺は相手の名前を呼んでいたけど…うーん、あれ?何だったかな?)
間違いなく俺は夢の中で男の名前を呼んでいたはずなのだが、どうしても思い出せない。
(それに、あの行為は…)
まるで俺が欲しがるように、男に抱かれる夢。まさか俺にそんな願望があるとは思えない。
(だけど…)
夢の内容を思い出そうとすると、昨夜のように体の奥が疼き始めた。
足をモゾモゾと動かしながらこっそりと敏感になった股間を刺激する。すぐに下着と擦れるだけの感覚では物足りなくなった。
(あぁ…)
夢の中で味わった快感。体が強引に押し広げられて奥まで満たされる。
俺は我知らず力を込めて握っていたシャーペンを見つめた。
(欲しい…)
周りの同級生たちを窺うと、静かにノートをとったり昼寝をしたりと様々だが、こんな中で俺は何を考えているのだろう。だけど授業中だと思うと、毛が逆立つような強烈な興奮が膨れ上がる。
「ふぅ」
シャーペンを見つめながら俺は甘い吐息をはいた。
このままだとおかしくなりそうだ。
(おかしくなる前に…なんとかしないと…)
発散させないと、と心の中のどこかから声が聞こえた。
「ふぅ…ふぅ…」
俺はシャーペンの頭を指の腹で撫でまわしながら唇をペロッと湿らせる。
(ちょっとだけ…そうだ、ちょっとだけならきっとバレない…)
スッと閉じていた膝を少し広げた。それからシャーペンを持ったまま手を少しずつ机の下に下げていく。
「はぁ、はぁ…」
シャーペンの先を持ってスカートの中に入れた。
もうすぐ昨夜の快感が味わえる、そう思った時。
『キーンコーンカーン』
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
気だるい午後の教室の空気がパッと変わりざわめきが広がっていく。教師が諦めたように今日はここまで、と言うのを聞いて俺も我に返った。
(あっ…)
慌てて周りに合わせるように机の上を片づける。
(お…俺は何を…)
つい先程まで考えていたことを思い出してゾッとした。
(…そ、そうだっ、部活に行こうっ、そうすれば…)
毎日練習に試合にと過ごしてきた柔道場に行けば自分を取り戻せるかもしれない。俺は急いで高樹のもとへと向かった。
「たっ、あの…島津、君」
机の前でそう言うと、高樹が周囲を気にするような仕草を一瞬したものの「ああ、行こう」と立ち上がった。
◇◇◇
14周目 9月23日(木) 午後6時50分 島津政信
「ねえねえ、美紗は中学の柔道経験者なの?」
「えっと…中学では、やってないんだけど、道場に友達がいて…」
理沙の言葉に俺は言葉を選びながら答えていく。この返答は事前に高樹と相談していたので問題はないはずだ。
「次は高樹の降りる駅だな」
そして気がつけば俺の下車駅となっていた。
「ええっ?もう?」
理沙は話し足りないのか残念そうな顔をしている。
「そうだっ、私も同じ駅で降りることにするね」
「えっ?」
高樹が驚いた顔をした。だけど、それを無視して理沙は俺の手をとってくる。
「私も次の駅で降りても帰れるのよっ。途中まで一緒に帰ろっ?」
それから理沙の家の場所を高樹が聞く。確かにちょっと大回りにはなるけど理沙の言う通りだった。
俺がどうしたら良い?と目で聞くと高樹が助け船を出してくれた。
「女の子二人だと危ないから俺も送る」
そして、俺達三人は夜道を歩いて帰った。
理沙は俺に男の趣味や付き合った経験や化粧の仕方や私服のブランドといったいかにも女の子の好きそうな話題を出してきて、俺はバレないようにドキドキしながら返事をした。
テンションも高くケタケタと笑い声をあげて歩く理沙に、こんな一面もあったんだな、と俺は思った。
そして、あっという間に家についた俺は家の前で二人と別れた。理沙の声は角を曲がってもまだ聞こえる。
理沙の笑い声が遠ざかっていくのを聞きながら、なんとなく微笑んで俺は玄関のドアを開けようとして。
(あっ、そうだった)
暗くて鞄の中が見辛かったから、地面に鞄を置いてしゃがみこんだその時だった。
『キィ』
高樹の家は金属の門があって、そこから玄関までは小さな庭がある。その先に玄関ドアがあるのだが、その門の軋む音がした。
(ん?)
高樹が何か用でもあって戻ってきたのかと思った俺は玄関の前で立ち上がって門の方を振り返る。
「ぇ…」
だが、そこにいたのは高樹ではなかった。
「な、なんで…」
俺が驚いている間に目の前まで来た男はニヤニヤと笑っている。
「なんで、ってのは彼氏に対して酷い挨拶だな」
駅で見た男、そして、その言葉から高樹の彼氏の琢磨だと分かった時にはもう男の手の届くところに俺はいたのだった。
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